中外製薬株式会社

拡張性のあるJMASの
テンプレート型AIチャットボットを導入し、
正確かつタイムリーな情報提供チャネルを実現
24時間365日対応可能な
医薬品情報提供体制を整備

目的

チャットボットを活用して有人チャネル並みの医療関係者向け医薬品情報提供体制を整備し、24時間365日の問い合わせ対応も実現したい

概要
  • 製薬企業では営業時間外も医薬品の情報提供を行うことが求められている
  • 厳格な規則や倫理観にもとづいた情報提供を行うことは当然として、提供する情報の科学的妥当性・最新性・正確性・公平性・客観性で一定の品質を確保しなければならない
  • 優れた技術力と独自の開発テンプレートを保有するJMASに、Microsoft社の基盤を活用したチャットボット環境の開発を依頼
  • 24時間365日対応可能で、正確かつタイムリーな情報提供チャネルを整備
課題
  • 有人チャネルでの情報提供は営業時間内に限られており、休日や夜間・早朝の問い合わせに対応できなかった
  • 担当部署には1年間に約6万件もの質問が寄せられ、担当者の業務負荷が増大していた
  • 災害などの事業継続を脅かすリスクに備える必要があった
選定理由
  • 社内システムと親和性が高く、将来性のある技術を保有するMicrosoft基盤
  • 技術力が高く、機能追加や変更にも柔軟に対応できる独自のテンプレートを保有するJMASに開発を依頼
導入の効果
  • 営業時間外である土日や夜間・早朝においても正確かつタイムリーな情報提供が可能になった

人を介した情報提供チャネルと
同等レベルの新チャネルを作りたい

中外製薬株式会社(以下、中外製薬)は、革新的な医薬品とサービスの提供を通じて新しい価値を創造し、世界の医療と人々の健康に貢献する日本の製薬企業大手である。2020年3月には、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に向けた2030年までのビジョン「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を発表。これまで培ってきたバイオをはじめとした独自のサイエンス力・技術力に、最先端のデジタル技術を掛け合わせることで、自らのビジネスを変革し、社会を変えるヘルスケアソリューションを提供することを目指している。

革新的な医薬品の創製・開発が進む現代においては、医薬品の適正使用などの観点から医師や薬剤師をはじめとする医療関係者への迅速かつ正確な情報提供が欠かせない。中外製薬のメディカルインフォメーション部では情報提供チャネルの1つとして「くすり相談窓口」を運営し、メディカルコミュニケーターが自社製品に関する問い合わせに対応している。実際、医療関係者などから同社に寄せられる問い合わせは年間約6万件(2018年実績値)。その主な手段が電話だ。ただ、これまで有人チャネルでの情報提供は原則9時から17時半までの営業時間内に限られてきたという。一方で、人との対話を伴わない情報提供チャネルも備えている。Webサイトや電子媒体の添付文書、FAQ、医薬品リスク管理計画(RMP)、適正使用ガイドなどがそれにあたる。

メディカルアフェアーズ本部 メディカルインフォメーション部 田中 里和氏は、「医薬品は科学的根拠に基づいた正確な情報とセットでなければ使えません。適切に使わなければ効果が得られなかったり、予期せぬ副作用が生じたりする場合があるためです。医療関係者への正確な情報提供は製薬企業にとって重要な活動の1つ。休日や夜間・早朝の対応も必要ですし、激甚災害下でも活動を途切れさせるわけにはいかないのです。そこでわれわれはチャットボットを利用して、24時間365日対応可能で、有人チャネルと同等レベルの医薬品情報提供体制を整備したいと考えたのです」と語る。

医薬品の適正使用のサイクルには、「的確な診断、最適の薬剤・剤形、適切な用法・用量」「調剤」「薬剤の説明を十分に理解」「適正に使用」「効果や副作用を評価」「フィードバック」の6つのステップがある。
(図「医薬品の適正使用」のサイクルを参照)
田中氏は、「一連のサイクルを回すことで薬剤の適正な価値が確立し、将来の患者に恩恵をもたらすと考えられており、6つのステップでは製薬企業、医療関係者、患者それぞれの密な情報交換が重要になります。チャットボットはこのサイクルを回せるものでなければなりません」と語る。
また、製薬企業は厳格な規則や倫理観にもとづいた情報提供を行わなければならない。薬機法などの法律や省令、各種通知、業界基準、社内基準を遵守することはもちろん、提供する情報の科学的妥当性・最新性・正確性・公平性・客観性で一定の品質を確保することも求められる。チャットボットはQAデータを追加、修正しやすいなど、管理・運用面での利便性を備えていることも必須だった。


テンプレート型チャットボットが
選定の重要ポイント

チャットボットの選定では、「機械学習型」がまず選択肢から外れた。機械学習型は大量の対話データをAIに学習させることで汎用的な会話にも対応可能だが、予期せぬ返答をすることもあり、製薬企業としての情報提供の品質を担保することが難しいと判断したためだ。一方、「ルールベース型(シナリオ型)」は事前に設定したルールに従って回答し、ルール以外の発話をしない点で安心感はあるものの、ルールの設定や回答文と質問文のデータセットの作り込みにかなりの労力を要することが予想される。そこで機械学習型とルールベース型それぞれの利点を生かすことができるハイブリッド型の導入を目指すことになった。

ソリューションの選定において重要な検討項目となったのは、性能、コスト、実績、社内システムとの親和性、高精度な回答を実現するための労力などだ。それらを慎重に比較・評価した結果、Microsoft社の基盤を採用。高度な技術力を有するJMASに開発を依頼することを決めた。

田中氏は、「JMASは、Microsoft社の基盤が提供する機能を最大限に活用したチャットボット環境の開発に定評があります。また、カスタマイズを極力排し、コストを最小限に抑えられることも重要な要件の1つ。質問に対して自然言語解析を行い、登録済みの回答の中から最適なものを選ぶ機能を標準搭載し、個別の機能追加や変更にも柔軟に対応できるJMAS独自のテンプレートを利用できるメリットは大きいと考えました。JMASとの開発作業ではQAデータの作成・登録において試行錯誤を繰り返し、質問に対する回答の精度を高めることに成功しました」と話す。


MI chatをリリースし、24時間365日の正確かつ
タイムリーな情報提供を実現

中外製薬は2019年1月、AIを用いた製品情報問い合わせチャットボット「MI chat(エムアイチャット)」をホームページ上に設置した。そこに問い合わせ内容を入力するとチャットボットのAIが理解し、質問者の意図に最も近い回答を提示する仕組みだ。2020年12月時点で登録済みのQAは約2,000に上り、34品目の製品に対応しているという。
田中氏は、「医療関係者の方々はパソコン、あるいはスマホから専用サイトにアクセスし、医療関係者であることの証明と利用免責事項の承諾を経てMI chatを利用しています。24時間365日対応の正確かつタイムリーな情報提供チャネルを構築できたことは大きな成果です。実際、MI chatは有人対応が困難な土日や夜間・早朝にも使用されています」と語る。

また、MI chatは国内で承認されている医薬品を承認内容(効能・効果、用法・用量)の範囲外で使用する「適応外使用」についての情報提供にも一部対応している。
田中氏は、「厚生労働省のガイドラインでは、医療関係者から求めがあった場合に限り適応外使用に関する情報提供が認められています。MI chatは医療関係者が入力した質問内容に応じて適切な回答を提示する仕組みのため、これに準拠していると言えます。もちろん、いつ、だれに、どんな情報を提供したかといった履歴をログとして残し、適正なトレーサビリティを確保できる設計にもなっています」と話す。

さらに、AIチャットボットの運用においては情報の最新性を保つためにQAデータの継続的なメンテナンスが欠かせない。JMAS独自のテンプレートを活用したMI chatは拡張性が高く、メンテナンス工数の抑制と回答精度の向上に取り組みやすいこともメリットという。
中外製薬は今後もJMASとともに、少ない問い合わせについての対応も含めた費用対効果を検証しながらMI chatのさらなる活用方法を探っていく。

田中氏は、「製薬企業が保有する医薬品に関する情報の多くは、社会や医療関係者などに提供するべき情報だと考えています。チャットボットも一部の製薬企業だけが使っていてもそれほど医療現場の役には立たないかもしれません。これからは医療関係者が求める情報ニーズと、製薬企業が提供する医薬品情報とのギャップを減らし、同業他社と歩調を合わせながら医療現場において真に役立つ医薬品情報提供体制を構築することが求められます。JMASにはそのような仕組みづくりを期待しています」と話した。


会社プロフィール

社名
中外製薬株式会社
本社
東京都中央区日本橋室町2-1-1
URL
https://www.chugai-pharm.co.jp/

中外製薬株式会社は、革新的な医薬品とサービスの提供を通じて新しい価値を創造し、世界の医療と人々の健康に貢献する日本の製薬企業大手である。2020年3月には、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に向けた2030年までのビジョン「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を発表。これまで培ってきたバイオをはじめとした独自のサイエンス力・技術力に、最先端のデジタル技術を掛け合わせることで、自らのビジネスを変革し、社会を変えるヘルスケアソリューションを提供することを目指している。